過ぎたるは猶及ばざるがごとし その2
「過ぎたるは猶及ばざるがごとし その1」の続き。
Janeway's ImmunoBiologyのChapter 13 Allergy and Hypersensitivityを無事読み終わった。めでたしめでたし。いろんな新しい情報がちょっとずつ入っている。伊達に改訂版を数年ごとに出しているわけではないらしい。
さて、花粉症は花粉が都会の汚い空気に混ざって引き起こす病気だと考えられていた。それは多分本当だと思う。例えば、私が京都で学生をしていた時に、うちの妹が実家から花粉症の季節に遊びに来ていた。そして花粉症を悪化させていた。次の年には忘れているので、また花粉症になりにわざわざ京都にくるのである。北山杉のせいか、それとも空気が悪いせいか、どうも実家よりも京都のほうが空気が悪いらしい。
その花粉症、どうも汚い空気のせいだけではないらしい。教科書(上の緑の本)と他の情報によると、Hygiene Hypothesis(日本語では衛生仮説)というのがあるらしい。この仮説によると、産まれる前から乳幼児になるまでに、いろいろな感染症にかかると、のちのちアレルギーになりにくい。もともと発展途上国にはアレルギーの人がほとんどいないことからもうなずける。
そして、都会に住んでるか田舎に住んでるかは問題ではないらしい。農家生まれの子供はアレルギーになりにくいという研究がある。昔ながらの農家には牛や豚などの家畜がいて、それを母親が手入れしていて、(家畜の糞を含め)いろんなところに細菌がいて、触っているわけである。さらに農家では殺菌処理をしていない牛乳を母親を幼児も飲んでいる。それらの中にも細菌がいる。つまり、細菌にしょっちゅう接しているわけである。
「殺菌処理してない牛乳って美味しそう!」と読んでいて思ったが。(私ってなんて食い意地がはっているんでしょう)
と、ここまでかいてからT細胞の話をしなければならない。T細胞とは免疫細胞の一種で、他の免疫細胞を助けるヘルパーT細胞 (Helper T cells, Th cells)というのと、感染してしまった細胞を殺すキラーT細胞というのがある。
そのヘルパーT細胞には4つか5つかの種類がある。数年ごとにいろんな新しい種類が出てくるので、T細胞研究者ではない私はあやふやである。で、今日はTh1 cellsとTh2 cellsとregulatory T cellsの話をする。Th1 cellsというのは細菌感染に重要な役割を果たしている。いっぽうTh2 cellsは、アレルギーを引き起こすことで有名であるが、もともとの機能は、たしか寄生虫に対する防御機構である。Th2はB細胞を助けて抗体産生を促し、その抗体が寄生虫や外来物質に付着することで身体を防御する。
そしてそのTh1/Th2はお互いにバランスを取っているというモデルがある。つまりTh1が刺激されるとTh2が弱くなり、Th2が刺激されるとTh1が弱くなる。イメージ的にはシーソーだと思ってもらえばよろしい。ちなみに、片一方だけが強化されてもどうしようもない。自然界の物事は何事も「バランス」である。
もっと詳しく知りたい人は、wikipediaのDetermination of the effector T cell response(英語)をどうぞ。
で、きれいすぎる環境で育った場合、Th1が刺激されないので、しぜんと免疫系がアレルギーを発生するTh2側に偏ってしまったのである。
というのが私のHygiene Hypothesisの理解。間違っているぞ!という突っ込みがあるなら、どうぞ遠慮なくコメント欄にどうぞ。勉強しなおして書き直します。
だが、緑色の教科書には、さらなる説明があった。
何かに感染すると、もちろんのこと免疫反応が活性化して、細菌なりウイルスなりを撃退しなければならない。だが、撃退した後は、ちゃんと元の静かな状態にまで戻る事が必要である。そこでregulatory T cells(日本語名はレギュラトリーT細胞らしい)が出て来て、活性化した他のT細胞を抑えるのである。
で、アレルギーの人は、このregulatory T cellsの機能がちゃんと動いてないらしい。これをcounter regulation hypothesisというらしい。
要するにですなー、現代人は産まれた時(あるいは産まれる前)から、きれいすぎる環境で育った結果、感染に対する防御機構(Th1 cells)を怠けさせ、さらに感染後の活性化した免疫系を沈める調節機構(regulatory T cells)も怠けさせ、アレルギー反応をつかさどる機構(Th2 cells)がむやみに働いている状態を作りだした。
なんと!
きれい好き過ぎるのもどうかということかしら。
Counter regulation hypothesisまで載ってるかはしらないけど、Hygiene HypothsisはNHKが特集にしたみたいなので、興味のある方はどうぞご覧下さい。
病の起源 第6集 アレルギー ~2億年目の免疫異変~(NHKスペシャル)
「ヒトの免疫システムが完成したのは2億年前。」という文章を読んで、「ヒトは2億年も前から存在してないんじゃ。ほ乳類か、それ以前の動物なんじゃ。。。」と、最初に突っ込みを入れてみたりして。ついでにいうとそのタイトルおおげさ過ぎるよ。仕事の関係上(?)、正確な文章に慣れているのか、間違いやあやふやな文章には敏感になってしまった。それにしてもエンドトキシン(Toll-like receptor 4のリガンド)の量だけで関連がつくのか。びっくり。
結論としては、皆様、子供をあまりきれいすぎる環境で育てないように。多少ばっちい方が、後々よろしいようです。風邪もいろいろもらってくるような子供のほうがよろしいのかも? 最近エレベーターの前で殺菌ジェル(しかも手をかざすと自動的にジェルが出てくる)が置いてあるのを見かけるが、あれが導入される前とされた後と、感染する率に違いはあるのか?アレルギーの率だけ増加したらがっくりくるぞ。
ちなみに最先端の科学というのはいつでも修正されていくので、これらの「仮説」も数年後数十年後にはもっと洗練されたものになっていくと思われる。
で、いろんな「間違ってるぞ」突っ込みは受け付けます。私はアレルギー専門家じゃないので(笑)。
今日の教訓 私も、アレルギー性結膜炎を撃退すべく、もうちょっと自分の免疫系の機能をアップさせないと。ちょっと(細菌的に)汚く暮らすか(笑)。
参考文献
・Farm living: effects on childhood asthma and allergy (Nature Review Immunology 英語)
過去のブログ
・過ぎたるは猶及ばざるがごとし その1
Janeway's ImmunoBiologyのChapter 13 Allergy and Hypersensitivityを無事読み終わった。めでたしめでたし。いろんな新しい情報がちょっとずつ入っている。伊達に改訂版を数年ごとに出しているわけではないらしい。
さて、花粉症は花粉が都会の汚い空気に混ざって引き起こす病気だと考えられていた。それは多分本当だと思う。例えば、私が京都で学生をしていた時に、うちの妹が実家から花粉症の季節に遊びに来ていた。そして花粉症を悪化させていた。次の年には忘れているので、また花粉症になりにわざわざ京都にくるのである。北山杉のせいか、それとも空気が悪いせいか、どうも実家よりも京都のほうが空気が悪いらしい。
その花粉症、どうも汚い空気のせいだけではないらしい。教科書(上の緑の本)と他の情報によると、Hygiene Hypothesis(日本語では衛生仮説)というのがあるらしい。この仮説によると、産まれる前から乳幼児になるまでに、いろいろな感染症にかかると、のちのちアレルギーになりにくい。もともと発展途上国にはアレルギーの人がほとんどいないことからもうなずける。
そして、都会に住んでるか田舎に住んでるかは問題ではないらしい。農家生まれの子供はアレルギーになりにくいという研究がある。昔ながらの農家には牛や豚などの家畜がいて、それを母親が手入れしていて、(家畜の糞を含め)いろんなところに細菌がいて、触っているわけである。さらに農家では殺菌処理をしていない牛乳を母親を幼児も飲んでいる。それらの中にも細菌がいる。つまり、細菌にしょっちゅう接しているわけである。
「殺菌処理してない牛乳って美味しそう!」と読んでいて思ったが。(私ってなんて食い意地がはっているんでしょう)
と、ここまでかいてからT細胞の話をしなければならない。T細胞とは免疫細胞の一種で、他の免疫細胞を助けるヘルパーT細胞 (Helper T cells, Th cells)というのと、感染してしまった細胞を殺すキラーT細胞というのがある。
そのヘルパーT細胞には4つか5つかの種類がある。数年ごとにいろんな新しい種類が出てくるので、T細胞研究者ではない私はあやふやである。で、今日はTh1 cellsとTh2 cellsとregulatory T cellsの話をする。Th1 cellsというのは細菌感染に重要な役割を果たしている。いっぽうTh2 cellsは、アレルギーを引き起こすことで有名であるが、もともとの機能は、たしか寄生虫に対する防御機構である。Th2はB細胞を助けて抗体産生を促し、その抗体が寄生虫や外来物質に付着することで身体を防御する。
そしてそのTh1/Th2はお互いにバランスを取っているというモデルがある。つまりTh1が刺激されるとTh2が弱くなり、Th2が刺激されるとTh1が弱くなる。イメージ的にはシーソーだと思ってもらえばよろしい。ちなみに、片一方だけが強化されてもどうしようもない。自然界の物事は何事も「バランス」である。
もっと詳しく知りたい人は、wikipediaのDetermination of the effector T cell response(英語)をどうぞ。
で、きれいすぎる環境で育った場合、Th1が刺激されないので、しぜんと免疫系がアレルギーを発生するTh2側に偏ってしまったのである。
というのが私のHygiene Hypothesisの理解。間違っているぞ!という突っ込みがあるなら、どうぞ遠慮なくコメント欄にどうぞ。勉強しなおして書き直します。
だが、緑色の教科書には、さらなる説明があった。
何かに感染すると、もちろんのこと免疫反応が活性化して、細菌なりウイルスなりを撃退しなければならない。だが、撃退した後は、ちゃんと元の静かな状態にまで戻る事が必要である。そこでregulatory T cells(日本語名はレギュラトリーT細胞らしい)が出て来て、活性化した他のT細胞を抑えるのである。
で、アレルギーの人は、このregulatory T cellsの機能がちゃんと動いてないらしい。これをcounter regulation hypothesisというらしい。
要するにですなー、現代人は産まれた時(あるいは産まれる前)から、きれいすぎる環境で育った結果、感染に対する防御機構(Th1 cells)を怠けさせ、さらに感染後の活性化した免疫系を沈める調節機構(regulatory T cells)も怠けさせ、アレルギー反応をつかさどる機構(Th2 cells)がむやみに働いている状態を作りだした。
なんと!
きれい好き過ぎるのもどうかということかしら。
Counter regulation hypothesisまで載ってるかはしらないけど、Hygiene HypothsisはNHKが特集にしたみたいなので、興味のある方はどうぞご覧下さい。
病の起源 第6集 アレルギー ~2億年目の免疫異変~(NHKスペシャル)
「ヒトの免疫システムが完成したのは2億年前。」という文章を読んで、「ヒトは2億年も前から存在してないんじゃ。ほ乳類か、それ以前の動物なんじゃ。。。」と、最初に突っ込みを入れてみたりして。ついでにいうとそのタイトルおおげさ過ぎるよ。仕事の関係上(?)、正確な文章に慣れているのか、間違いやあやふやな文章には敏感になってしまった。それにしてもエンドトキシン(Toll-like receptor 4のリガンド)の量だけで関連がつくのか。びっくり。
結論としては、皆様、子供をあまりきれいすぎる環境で育てないように。多少ばっちい方が、後々よろしいようです。風邪もいろいろもらってくるような子供のほうがよろしいのかも? 最近エレベーターの前で殺菌ジェル(しかも手をかざすと自動的にジェルが出てくる)が置いてあるのを見かけるが、あれが導入される前とされた後と、感染する率に違いはあるのか?アレルギーの率だけ増加したらがっくりくるぞ。
ちなみに最先端の科学というのはいつでも修正されていくので、これらの「仮説」も数年後数十年後にはもっと洗練されたものになっていくと思われる。
で、いろんな「間違ってるぞ」突っ込みは受け付けます。私はアレルギー専門家じゃないので(笑)。
今日の教訓 私も、アレルギー性結膜炎を撃退すべく、もうちょっと自分の免疫系の機能をアップさせないと。ちょっと(細菌的に)汚く暮らすか(笑)。
参考文献
・Farm living: effects on childhood asthma and allergy (Nature Review Immunology 英語)
過去のブログ
・過ぎたるは猶及ばざるがごとし その1
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